おまえもたまごとじ丼にしてやろうか!
最終的に至ったカオス
かつ丼、という食べ物があるね。パン粉の衣をつけて揚げたサクサクのトンカツを、わざわざタマネギと一緒におつゆで煮て、たまごでとじた食べ物だ。おいしい、とてもおいしい。
関東にチェーンを展開する「山田うどん」には「かき揚げ丼」というメニューがある。これはただ掻き上げを乗せただけではなくて、やっぱりたまごでとじた食べ物である。メニューの写真には「山田の定番!」という文句が添えられている。
お蕎麦屋さんに行けば「たぬきそば」や「コロッケうどん」や「天ぷらそば」がある訳だ。めんつゆと油は相性がいい、ということだろう。とりわけ「衣」が油を解き放ち、その身いっぱいにめんつゆを抱き締めている味に、みんな惹かれているということだ。
揚げものをたまごでとじてご飯に乗せたら、どれでも美味しい丼になるんじゃないか。そんな気がして来て試してみたら、だいたい予想のとおりでした。
揚げ物フィーバー
そんな訳で我が家の(せまい)台所に集結したのは五種類の「普段あんまりたまごでとじないよね」系の揚げ物たち。
(1)かぼちゃ天
天丼とか天ぷらの盛り合わせとして出て来たときには最初に片付けちゃう……、とかありませんかね? ぼくは甘いおかずがあまり得意でないもんで……。
(2)アジフライ
フライ四天王の一角を担う存在。普段は特に手を加えることなくソースか醤油で立派に「メインおかず」を張ることを考えると、トンカツ→かつ丼同様の変わり身と言えそう。
(3)ちくわ天
これは「天ぷら」というよりは「立ち食いそば/うどんのトッピング」としてキャラが立っているイメージ。丸亀製麺やはなまるうどんでもついついいつもチョイスしてしまう。安いわりにお腹に溜まるのが嬉しくって。
(4)山芋の天ぷら
スーパーのお惣菜コーナーで買ったんだけど、天ぷらの中で一番珍しかったのがこれ。山芋ってあんまり味ないでしょう、食感を楽しむものだと思う。めんつゆで煮込んで上手いこと味が染みたらおいしくなるのでは。
(5)ベーコンクリームコロッケ
立ち食いそばのトッピングとして不動の地位を確立しているのはいわゆる普通のコロッケで、あれにめんつゆが合うのは知ってる。けど、クリームコロッケだとどうなるんだろう?
一度に全部食べたらカロリーやらコレステロールやらがえらいことになるのは目に見えているから、それぞれ半分に切って食べます。ベースのおつゆは特に工夫もなく、おつゆのボトルに書いてある「丼もの」の通りに希釈したもの、薄切りにした玉ねぎをこれでぐつぐつやって、揚げ物を乗せて、たまごでとじるだけです。
別にそんな変なことやってるわけじゃないんだけどどこか慣れない印象。
さすがに同時に全部は食えないので、少しずつ順番に食べていきますよ。
かぼちゃ天玉丼
誰もいない食卓に、
「これ……、あれだな、かぼちゃの甘辛く煮つけたやつの味だ……」
小さく独り言が漏れた。正式に何て呼ぶのか判らないけど、あるでしょう、かぼちゃを、ね、甘辛くしたやつ、あれの味です。衣がおつゆのしょっぱさを吸い込んだ結果、あの料理に非常に近い味になっている。ぼくはかぼちゃの甘さが得意じゃないんだけど、ここまでしょっぱくなってればまあ……、食べられなくはない。ただ何だろうか、……精進料理感があるな。ちょびっとでも肉か魚の破片が入っていればそれだけでグレードアップしそうなんだけど……、かつ丼や天玉丼の幻影がちらつく。
下手するとこれ全部同じこと考えちゃうんでは。薄っすらとそんな懸念がよぎる。
おいしさ ★★☆☆☆
寂しさ ★★★★☆
別の料理感 ★★★★☆
アジフライ玉丼
アジフライはタテに半切りにした(そうしないと茶碗に収まらない)んだけど、きっとかつ丼のトンカツみたいにもうちょっと細かく切ってからとじたほうがよかったんだな。えらく荒々しい見た目になってしまった。ただかぼちゃ天丼のときに感じた「肉か魚が欲しい」という気持ちに対してはこれ以上ないアンサーとなっている。
だが、一口食べてみて驚いた、しょっぱいのだ。
……これはきっと下味の塩コショウの味なんだろうな。もとから味のついているものをめんつゆで煮込んだら、そりゃしょっぱくもなりますよ。
でも、大きく口を開けて噛り付くと、満足感は高い。ご飯と一緒にかきこみたい、ますます細かく切っておけばよかった。それでも無理してガツガツ行くと、小骨が致命的なまでに邪魔。
おいしさ ★★★☆☆
しょっぱ ★★★★★
小骨が邪魔 ★★★★★
ちくわ天玉丼
ちくわ天が人気なのって「安いけど手の込んだものが出て来た」感があるからじゃないですかね。魚のすり身だし、食感はイカだし、しかも天ぷらだし。
そんな訳で期待していたんだけど、やっぱりこれも一切れがでかいな。
はむ、と噛んでみる。
一瞬、イカ天がそこにいた。
すぐにそれが錯覚だと気付かされる。ちくわの香りがムンとしてくるのだ。考えてみるとこれまで「ちくわとご飯」って組み合わせあんまりしたことないな。炊き込みご飯にちょっと入れるぐらいか。そう言えばちくわってこう見えて結構個性が強い味と香りがするんだったっけ。
そんな印象です。
おいしさ ★★☆☆☆
イカの幻 ★★★☆☆
胃もたれ ★★★★★
……小さめの茶碗で食べているとはいえ、そろそろ揚げ物が胃にもたれてくるお年頃である。昼飯はこれぐらいにして、残りは夜に回した。
家人が半分ずつ残った揚げ物をカレーに乗せていた。
後半戦行きます。山芋天とクリームコロッケを、二人分まとめて調理。
山芋天玉丼
山芋の素朴な風味が消えてしまったのが残念で仕方がない。「山芋って火を通すとさ、ほっくりしてさ、優しい風味が残ってて……」って、誰に対してか判らない言い訳を口走りそうになる。ほとんどめんつゆの味の、ほくほくした何か。そんな中にあってわずかにぬめりが残っているのが、かえって寂しさを感じさせる結果になってしまった。
おいしさ ★★☆☆☆
山芋感 ★☆☆☆☆
残念さ ★★★★★
ベーコンクリームコロッケ丼
だいぶ上手く行っていない中で、気持ちも後ろ向きになり掛かっていたんだけど、これは一口食べて「んん!」と思わず膝を立てた。そのまま立ち上がるほどではないけれど、これはイケる。クリームコロッケってもともと濃い味で、そこにめんつゆが加わるとしつこくなるかなって心配してたんだけど、むしろここへ来て初めて味が拮抗する感覚があった。めんつゆってこうしてみると結構強いあじだったんだな。アジフライはしょっぱくて、「しょっぱい×しょっぱい」の相乗効果で駄目だったけど、別ベクトルの濃さならめんつゆと対等に渡り合える。
クリームコロッケにはめんつゆがよいのかも知れない。
おいしさ ★★★★★
濃さ ★★★★★
バランス ★★★★☆
ここでこの企画終えてもいいかなと思ったんだけど、数日後家に帰ったら家人が買って来た揚げ物が台所で冷えてぼくを出迎えてくれた。せっかくなので延長戦を催すことにしよう。ラインナップは白身魚のフライとハムカツ、そしてプラスアルファでもう一品。
ハムカツ丼/白身魚のフライ丼/あげ玉玉丼
一つずつの写真を撮り忘れちゃったからまとめて。
まずハムカツ丼。いや、判ってたけどしょっぱいな!
アジフライ丼やハムカツ丼を作るにあたっては、おつゆを薄めにしなきゃいけない。それかもう、ソースカツ丼みたいなカッコにしなきゃダメだ、とにかく下味のついてるものはたまごとじ丼には向いていないと思います。
ただ、それを差し引いても味そのものは塩と油の合わさったジャンクな感じで、そういうのが好きな方はいいのでは。男子高校生とか。あとはまあ、肉感においてはかつ丼に負けないものを感じる。魚肉ソーセージかも知れないけど。
おいしさ ★★☆☆☆
塩 ★★★★★
肉感 ★★★★☆
続いては白身魚のフライ、好きです。のり弁でも最後にとって贅沢にガブガブ頂きます。この「白身魚」の正体についてはこの記事を参考にしますと、どうも「メルルーサ」であるらしいですね。メルルーサってちょっと沖縄の言葉っぽさありません?
これもしょっぱいかなーと思ったら、下味があっさりめだったのかそんなことはなく。デフォルトでタルタルソースが付いていたのでそのまま入れちゃったんだけど、これもそんなに合わないことはない。
トータルで考えると一番優秀かもしれません。バランスもいいし、贅沢な感じがしますよ。
おいしさ ★★★★★
バランス ★★★★☆
満足感 ★★★★★
最後に、あげ玉があったんで、それも一緒にたまごとじにして丼に。あげ玉は普段納豆に入れて食べています。
保護色……、だな。
味も……、遠いな。
しかししつこさだけは残るな……。
やらないほうがよかった。
おいしさ ★☆☆☆☆
まずしさ ★★★★★
虚無感 ★★★★★
===
選択肢の一つとしてなら
夫婦が共働きの家なんかでは、スーパーのお惣菜コーナーにある揚げ物って食卓に並ぶ機会もおおいんじゃないだろうか。でもたいていは「揚げたて」とは程遠い、冷めてて硬くなってて……。レンジでチンすると、今度は衣がフニャラカになってしまって。せっかくの晩御飯が寂しくなってしまう。
しかしながら、たまごとじ丼にすると、
(A)衣フニャラカでも気にならない
(B)ひと手間プラスしたことによる(自己)満足感
(C)たまごとタマネギで栄養バランスアップ
こういったメリットが発生する(塩分量については目をつぶってもらうとして)のである。
遅くなった夜のご飯の選択肢の一つとしては、アリなんではないでしょうか。アジフライやハムカツ以外でね。
揚げ物大好き。