東京レトロポリタンク

BL小説家(志望)の男の興味の矛先。

斎藤さんの結婚式の二次会にBL小説家志望として行ってきた。

さる11月11日、ウェブライターで指圧師の斎藤充博さんの結婚式が催された。ありがたいことに二次会にお誘いいただいたので、ふるえながら参加してきた。

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◆斎藤さんのBL小説を書いていた

ウェブでよみものを嗜む人々にとって「斎藤充博」は見慣れた名前だろうからわざわざ紹介するのはやめよう。愉快で元気で時々つらい35歳である。斎藤さんとぼくは同い年で、知り合ってかれこれ6年。とはいえ相変わらず敬語でやり取りし合っているから、「友達」なのかも判然としない。ただ、ぼくは斎藤さんが昔から好きなので、斎藤さんにもぼくをもっと好きになって欲しいな……、と思っている。
そんな斎藤さんが突然連絡をくれたのは今年の春のこと。

「おれを主人公にBL小説を書いてくれませんか、そういう同人誌を作りたいので」

このへんのことについては、既に斎藤さんがここ(http://nlab.itmedia.co.jp/nl/spv/1711/02/news005_0.html)でガッツリ書いて下さっているんで、全体的なことについては書かない。
紆余曲折あって、本は無事に刷り上がった。しかしイベントは11月18日、本の刷り上がりは11月の初旬である(この時期に斎藤さんがTwitterに本の実物を上げていた)普通、即売会に合わせて印刷所に本を頼むようなときは、イベント当日に会場へ直接搬入ふるもんなんだけどな……。
ぼくを含む参加者たちは訝っていたと思う。その上斎藤さんが、
「この本、結婚式の二次会で参加者に配ります」
こんなことを言い出したときに「あんた何言ってんだ!」って思ったの、たぶんぼくだけじゃなかった。

ここでぼく自身のことを少しだけ書かせてください。
ぼくはBL小説を書いている。趣味で書いているのではなく、本気で、プロになりたくってBL小説を書いている。でも現状、なれていない、なれる気配がない。
たくさんの人に読んでもらいたい、そう願って書いている。でも書いても書いても、リアクションは薄くって、つらい。同人誌作りも費用対効果が悪くてやめてしまった。
そんなぼくに斎藤さんが「小説を書いてくれ」と言った。依頼をされたとき、ぼくは即諾したのだけど、最大の理由は、
「斎藤さんに小説を読んでもらえる!(以前、斎藤さんに取材をして小説を書いたことがあって、その完成原稿を送ったんだけどどうも読んでくれていない様子だ)」
と思ったから。それぐらい、感想に飢えていた。

それをまさか、結婚式の二次会で参加者に配るとは。っていうか依頼された段階では、斎藤さんが結婚してるなんてことも知らなかったんだけど!
怖いな、と思う反面、
「こんなにたくさんの人に読まれるの初めてだ」
って、興奮を催している自分がいるのも事実。だってぼくは、読者さんが欲しかった。喉から手が出るほど欲しかった。
でも、やっぱり怖い。

そして迎えた斎藤さんの結婚式の二次会当日。到着したぼくを出迎えてくれたのは、
「これ、引き出物……? 引き出物っていうか、おみやげです」
という言葉とともにお手伝いの方から手渡された、刷りたてほやほやの新刊同人誌、
『BLって何だかわかんないから自分を素材に作ってみた』
である。
感動か、興奮か、それとも恐怖か判らない震えを催しながら会場となったレストランに入ると、……場内のほとんどの方が、『BLって〜』を手に持ち、ページをめくり、あるいは読みふけって、いる。
ぼくの小説を読んでくださっているのかは、判らない。でも、その本には間違いなくぼくの書いた小説が載っているんだ。
小説原稿を書き上げてから随分経つけど、当時の苦労が少しだけ蘇り、形になる前に溜息に混じって消えて行きそうな気持ちだった。


◆「ナマモノBL」なんて書くの初めてだった

斎藤さんに「ぼくを題材にBL小説を書いてください」と言われて、読者さん欲しさに請け負ったはいいけど、ぼくはこれまで「ナマモノBL」なんて書いたことも読んだこともなかった。そういうものがあるらしいぞというのは知っていたけれど、実際ぼく自身が三次元の誰かに、執筆へ向かわせるだけの強烈な「萌え」の感情を抱いた経験はほとんどない。
そこへ来て、自分と同い年の、要するに「おっさん」に「おれをBLの主人公にしろ」と言われたのだ。冷静になるにつれて、指先が冷たくなるような気持ちに陥る。
不安を口に出せないままでいるうちに、斎藤さんが玉置標本さんに相手役のオファーを出してくれてしまった。玉置さんの記事はたくさん読ませて頂いてきたけど、ご本人とお会いしたことはただの一度もない。雰囲気も判らない。どうしよう? でももう後には引けない、「玉置×斎藤」小説を書かなければいけない。
これは、率直に言おう、大変だった。
そういうBLが好きな方も多いからこんな言い方しちゃいけないんだけど、ぼくは「おっさん」に萌えることはない。可愛いのが好きで、言ってしまえばショタコンでありロリコンである。そんな男がおっさん同士のBLを……?
斎藤さんは可愛らしい顔をしている、玉置さんは目鼻立ちくっきりで男らしい。しかし、しかし、……おっさんはおっさんじゃないか……!

ぼくにとって救いだったのは、玉置さんのこの記事(http://portal.nifty.com/kiji-smp/120315154293_1.htm)だった。
そもそも、玉置さんと斎藤さんは「TANDEM」という、二人羽織のバンド(記事読まないとよくわからんだろうけどそういうバンドがあるんですこの世には)のメンバー同士なんだ。しかもこのときの二人はプロのメイクアップアーティストさんの手によって、まるでマンガから出てきたみたいにお美しくなっている。これだ!
筆が進み始めた。ぼくの脳内のおっさん二人が、物憂げでナイーブなヴィジュアル系バンドの二人に変身して、もどかしい思いを輝きとともに解き放ち始めた。作中にはデイリーポータルZ編集部の古賀さん・安藤さん・石川さんのお三方にも登場して頂いた。特に古賀さんは、一歩を踏み出せない作中斎藤の背中を押す、姉御的な役を担って頂いた。自分はおっさんのみならず女性を書くのも得意ではないんだけど、古賀さんは上手に書けた……、と自負している。
かくして、小説は完成した。

苦労というほどでもなかったな、小説を書こうと思ったらもっとしんどいことも、いくらだって起きる。でも書いたものを読んでもらえたとき、その苦労は一瞬にして報われるのだ。

会場を見回すと、やっぱりたくさんの人が本を読んでくれている。夢みたいな景色だった。もう、この景色を見られたら帰ってもいいぐらいだ……、そう思ったけど、斎藤さんのBL小説を書いたぼくにはもう一つしなければいけないことがあった。



「あの、あの、は、は、はじめまして、小説を書かせていたただだきました村岸健太と申します!」
ハイボールを流し込んで勢いのままに、ぼくは同じ本に可愛い斎藤さんの漫画を寄稿された米田梅子さんと共に、白いドレスの女性にそう挨拶をした。丁寧さを心がけた結果、挙動不審を二歩も三歩もオーバーしたような状況のぼくを見て、にっこりと、美しく微笑んでくださった。
何をお話ししたか、よく覚えていない。なんだか、ぼくはただただ「すみません、本当にすみません」と謝っていた気もするのだけど、それも定かでない。確かなのは、この女性がぼくの書いた「斎藤さん受の小説」を読んでくださって、しかもとても心のこもった書評を寄せてくださったということ。
そして、……この白いドレスの可愛らしい女性が、斎藤詩織里さん、斎藤さんがお嫁さんである、ということ。

「嫁に書評を書かせよう」
本作りの最中に斎藤さんが言い出したときには、冗談抜きで「何言ってんだあんた!」と声に出してしまった。そもそもぼくは原稿依頼を頂いた段階では、斎藤さんが既に詩織里さんと入籍していることなど全く知らなかったのだ。
「面白がってくれてたみたいだから」
って、そりゃ一応そうは言うでしょうよ、でも内心はどうか判らない。自分の夫になる人が、自分以外の男と……。
いつかお会いするときが来たら、何て言えばいいんだろう? ずっとそう考えていて、この結婚式の二次会がその場になると定まったときにはもう、何か月も前から緊張していたほどだ。本当は怒ってるんじゃないか……? 

詩織里さんは怒っていなかった(いや、本当は怒っていたのかも知れないけど、それを見せまいとしてくれていたのかもしれない)
ぼくにとってはそれが、何よりも一番幸せで、そして一番大事な宝物のような事実だった。「ナマモノBL」を「本人の依頼に基づいて」書くという行為の持つ意味の大きさに、ぼくはこのときようやく気付いたのだ。斎藤さんがこの本を、考えうる限り最も相応しくない場で参列する人々に配ろうと思った意味も。
この本は、ぼくに出来る斎藤さんご夫婦への、最大限の祝福だった。
これからのお二人が、幸せであり続けてくれることをぼくは祈っている。でも「病める時も」来ないとも限らない、考えたくはないけれど、人生には何が起こるか判らない(本人から「おれのBLを書いて」と依頼されることがあるなんて、BL小説家はきっと想像しない)
そのときに、
「でもあんな本があってもおれたち仲良し」
って思ってもらえるんじゃないか。
つまりこの本は、二人のこれからに何があろうと二人はまるで揺らぐことなく、固い絆で結ばれて歩んでいくことを、予め証明するものなのだ。
そして、それが出来るのは、どうやら斎藤さんの知り合いの中で唯一のBL小説家志望者であるぼくの他にいないらしい。
きっと斎藤さんはそう考えて、ぼくに原稿を依頼したんだろうと、ぼくは思うのだ。

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◆余談

さすがに一流ライター斎藤さんの結婚式の二次会で、その場にいる方々の錚々たるっぷりたるや、「錚々たる」という言葉しか思い付かないような豪華メンバーだった。そんな中、数ヶ月ぶりの再会となった古賀さんはぼく(なんか)のことを覚えてて下さって、本当に嬉しかった。ご本人にも、ぼくの書いた「古賀さん」を気に入っていただけたようだ。
そして同じくDPZ編集部の藤原さんや石川さんとご挨拶させて頂く機会も得られた。これまで画面の向こうにいた方たちとこうしてお話する日が来るなんて、夢にも思わなかった。何もかも、斎藤さんご夫妻のおかげである。
斎藤充博さん、詩織里さん、どうぞ末長くお幸せに!