玉子焼きをデザートにしちゃえばいいんじゃない?
「お寿司屋さんの玉子焼きはデザートの甘味」みたいな説がある。でもデザートをご飯に乗せて食べるって、何だか妙な気もする。食事とデザートがシームレス過ぎるっていうか。
どうせなら、もっとちゃんと「デザート」にしちゃえばいいんじゃない?
そう思ってやってみたら、BL小説家を目指す自分を見つめ直すことになりました。
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◆料理は苦手じゃない
普段から家で料理をしている。そんなに手の込んだものを作るわけじゃないけど、まあ、一般的な飯のおかずを作ることにはそれほど苦労しない。
しっかりめに味をつけたナポリタン
「玉子焼きをデザートにしよう」と思い付くと同時に頭に浮かんだのは、「プリン」だった。プリンなんて作ったことないけど、要は玉子を甘くして固めたものだろう。それなら玉子焼きの卵液にちょっと手を加えたら簡単に出来そうだ。
早速、簡単なプリンのレシピを読んでみる。
材料は大体こんな感じだ。
卵 2個
砂糖 50g
牛乳 250cc
うむ。冷蔵庫の中のものだけで作れそうだな。
早速準備に取り掛かろう。
玉子を2個に
砂糖を50g(うちは黒っぽいお砂糖を使っています)
牛乳を……
にひゃくごじゅ……
……
みかん味のフルーチェ?
えらいことになってしまった。「料理は苦手じゃない」なんてどの口が言うのか。いやしかし、曲がりなりにも玉子だ、火を通せばちゃんと固まってくれるはずだ。
そう自分に言い聞かせながら、火を入れる。
玉子焼きじゃなくてプリンだからバターを溶かして
卵液を入れて……
離乳食?
わかってたさ……、固まるわけがないじゃないか、明らかに牛乳の量が多すぎだもの!
しかしプリンのレシピの通りに作ったんだ、これは形こそ違えどプリンである、誰が何と言おうとプリン以外のなにものでもない。
試食してみる。
……考えてみるとおれ甘いもの好きじゃなかったな。友達が甘い飲み物すごく好きで、一口もらうことがあるんだけど、いつも甘すぎて震えている。たぶん甘いものへの耐性が人より弱いんだろう。甘すぎるものを食べると震える。甘すぎて苦味さえ感じる。めまいを覚えて畳の上に倒れ伏した。
完全に失敗だ。
◆トライアゲイン
とはいえ「失敗だ」で終わらせるわけにはいかない。
何でって、さっきの試作品を作るのに使った卵液は全体のごく一部。まだトータル300ccは残っている。
どうにか起き上がって(ほんの少量食べただけで胃もたれがすごい)冷静に考えてみる。課題は主にこの二つだろう。
1.牛乳の量が多すぎた
2.砂糖も、あったかい玉子焼きを作ることを考えると多い
ひょっとしたら「3.アイディアに問題がある」という看過しがたい点が失敗の原因なのかもしれないけれど、ぼくが普段から書いている小説もそうだ(ぼくはBL小説家を目指しています)
多少アイディアに問題があっても、書きようによって面白い話にすることが出来ることは経験上、判っている。
問題は「その出来上がったものを投稿しても賞に引っかかったことが一度もない」ということなのだけど、それはこの玉子焼きとは関係ない。
さて、二つの問題を同時に解決するにはどうすればよいか。
玉子を追加すればよい
玉子を新たに2個増やして、これに先ほど作った卵液を加えることで味と固まりやすさの両方を一挙に解決出来るのでは……?
卵液の量は、なんの根拠もないけど100ccにしてみよう。
菜箸でよーく混ぜて、再び鍋を熱してバターを溶かして、いざ再戦!
おっ!
薄焼き玉子らしきものが出来てきたぞ!
後で気が付いたけど鍋の使い方間違ってるな……(たぶん奥にカタマリを寄せて手前に卵液を入れるんだと思う)
二回、三回と薄焼き玉子を巻いていくうちに、どんどん「玉子焼き」の体裁をなすものが出来上がっていくではないか。
しかし漂う匂いはすごく甘い。見た目は玉子焼きなのに甘ッたるい匂い、五感の中で起きるパラドックス。しかし今は視覚と嗅覚が一対一で真っ向から対立しているけれど、味覚が加われば多数決で納得行くものになるはず!
◆実食!
奥の小皿はカラメルソースですがこの後固まって使い物になりませんでした
どうだ。
見た目は完全に玉子焼きだ。
ちょっとゆるくて色白だけど、でも、これは玉子焼き以外の何物でもない。
だが問題は味だ。さっきみたいに甘すぎたらどうしよう……? 恐る恐る、口に運んでみると……。
あったかいプリンだ。
ちゃんとカスタードの味だ。
でも食感は玉子焼きだ。
断面もこの通り
大成功である。「デザートになる玉子焼き」がここに完成した。当初のアイディアの問題を、後付けの思い付きによって見事に克服することが出来たので大満足である。
ただ、これ一切れで十分だな……、だっておれ、甘いもんそんな好きじゃないから……。
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◆でも甘いもんそんな好きじゃない
BL小説家を目指す上で、ぼくが超えるべきハードルは多い。歳も歳だし、そもそも男だし、このところ「ほんとになれるのかな……」と不安になるシーンが増えた。思いつくネタ思いつくネタ、「こんなのBLで書いていいの?」みたいなものばっかり。それでも必死に知恵を絞って書き上げて、賞に引っかからないなりに、少しずつ投稿先の編集者さんから褒めて貰えることも増えた。
思いつくネタというのはぼくの中から生まれてくるもの。そしてそれをどう料理して作品に仕上げるかというのも、ぼくに委ねられている。ネタがBLとして奇妙なものばかりになりがちなところは、やっぱり技術を磨いてカバーして行くのが大事なんじゃないか。
今回のチャレンジは、ネタから作品へと至るプロセスを見つめ直すいい機会になりました。
むりやり小説の話で締めようとしてるのは、まだ大量にある卵液をどうしたらいいのかというアイディアが全く浮かばないからです。
誰かぼくにいいアイディアをください