都内最古の車両を眺められる立ち食いそば屋
駅の立ち食いそばが好きだ。
乗り換えの短い時間でズズッと啜って乗りたい電車に間に合う利便性の高さもさることながら、バリエーション豊かなトッピング、低いカロリー、冬は汗が滲むほど温まるし、夏の冷やしも爽やか、味も必要十分といった感じで……、つゆの香りに誘われるように、しょっちゅう入ってしまう。
何より駅のホームにある立ち食いそば屋がいい。
行き交う人の向こう側、着いてはまた走り出す電車の姿を眺めながら啜る立ち食いそばって、他の食べ物にはない魅力があるように思う。
ところで駅の立ち食いそば屋に、その駅を管理する事業者ごとの種類があることはよく知られていると思う。
首都圏の大手私鉄の一つである東急電鉄も自社で立ち食いそば屋を展開している。渋谷や武蔵小杉に店舗を構える「しぶそば」がそれだ。このしぶそば、ほぼ全ての店舗が駅構内に存在するのだが、いずれもコンコースだったり改札前だったり、「そばを啜りながら電車を眺める」ことが出来ない(と思う。実は全部の店舗を通い果たした訳ではないんだ)
その中にあって、池上線と多摩川線のターミナルである蒲田駅の改札内にある店舗は「しぶそば」で唯一、そばを啜りながら電車を眺められる、いわゆる「トレインビュー」な物件であることを、蒲田在住の友人が教えてくれた。
東急蒲田駅の改札口。
東急多摩川線と池上線のターミナル、蒲田駅。この二路線は、他路線で急行が走ったり他社線と相互乗り入れをしたりしている中にあって、全部の電車が各駅停車、しかも3両編成ととても短い。都内のターミナルでありながらどこか長閑な雰囲気が漂うが、電車は次々にやって来て、入れ替わるように出て行くから、なかなかにめまぐるしい。
パチンコ屋ではなく立ち食いそば屋。
改札をくぐって右手に目的の「しぶそば」の蒲田店はある。しぶそばは店内に椅子席のあるお店も多いけど、この蒲田店はホーム上店舗であることもあってカウンターのみ。控えめな照明の店内は、電車が着くたびお客さんでいっぱいになる。
同行してくれた友人はえび天せいろ、ぼくは冷やしかき揚げ天そばを注文。さすがに立ち食いそばで、待つほどもなくカウンターに届けられる。しぶそばは立ち食いそば屋にしては麺が優秀で、きちんとコシのあるそばが出てくる。最近の立ち食いそば屋はこういうところが増えて嬉しい。茹で置きを戻しただけのフワフワしたそばもそれはそれで美味しいんだけどね。
伝わるかしら、かき揚げのカラリ感。
ところでさっき「トレインビュー」と書いたけれど、店の外観からおわかりのとおり、実際にトレインをビューしたいと思ったなら少し工夫が必要になる。店内からトレインをビュー出来るのは暖簾の掛かった出入り口付近に限られるし、見ることが出来るのは池上線の発着する1番線と2番線の電車のみだ。
入店と同時に電車が出て行った1番線は今は空。早く来ないかなあと思いつつ、店内でカラリと揚げられたあさりたっぷりのかき揚げを齧っていたところ、列車接近の放送が聴こえてきた。
やって来たのは……。
のれんの向こうに。
東急線を走る電車のうち、最古の車両である7700系と呼ばれる車両だった。東急のみならず東京都内を走る車両ではもう数えるほどしか見ることのできないない、上下二段に分かれたタイプの窓を持つ形式だ。ほとんどが新型車に追われるように地方の私鉄に移籍してしまったが、池上線と多摩川線ではまだ僅かばかり、この車両が健脚を披露している姿を見ることが出来る。
つまりこの蒲田駅の「しぶそば」は、
「唯一トレインビューを楽しめるしぶそば」
であるのみならず、
「都内でもっとも古い電車を眺めながらそばを啜れる立ち食いそば屋」
でもあるのだ。
先述した通り、「しぶそば」のそばはとても出来が良い。季節ごとの限定メニューも、どれも一食の価値があると思うし、東急沿線の住民が羨ましく思えるほど。
都内最古の車両を眺めながら啜る立ち食いそばって、ちょっといいと思うぞ。
東急はのるるんも可愛い。
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7700系の窓。上下二段になってるとグッと古さが出る。古い電車に乗りに遠くまで行くことも厭わない。
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ブログ始めて最初の記事です。普段はBL小説を書き、TwitterでR-18な話ばかり垂れ流している34歳の男なんですが、競馬や鉄道や食べ物、ちょっとレトロなもの、そしてインディーズバンドなど、四方八方に興味を向けて生きています。よろしくお願いします。