東京レトロポリタンク

BL小説家(志望)の男の興味の矛先。

関西大手私鉄のいいところを見て回った件(えんせんみんボーイズおまけ)

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 全国には十五社の大手私鉄があり、そのうち八社は関東に、残りは中部・近畿・九州に存在する。関東在住で浅め鉄道ファンであるぼくのような人間は、西へ足を運ぶたび少しずつ乗っては来たけれど、まだまだ十分に各社を味わい切れているとは言いがたい。

 今回、関東の大手私鉄を推す少年たちのほのぼの不条理四コマ漫画「えんせんみんボーイズ」の作者である柏餅なぎたくんと思う存分京阪神大手私鉄を楽しむ機会があった。各社を辿って見えてきた「すごい!」を、紹介して行こうと思う。

 

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【阪急梅田駅がすごい!】

 

 阪急と言えば「マルーン」の電車、「マルーン」と言えば阪急。新型も古参も同じ艶のあるマルーンで塗られた車両たちが何より印象的な「阪急電車」であるが、何が一番すごいって、やっぱりターミナルである梅田駅がすごい。

 

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この色を鉄道車両の塗色に使うって発想がそもそもすごい。

 

 まず、言葉でそのすごさを説明してみよう。

 阪急の梅田駅は、阪急神戸線阪急宝塚線阪急京都線という三方向へ伸びる幹線すべての始発駅だ。一路線あたり三本の線路を備え、ホームからはひっきりなしにマルーンの電車が発着する。ホームは「頭端式ホーム」と呼ばれる、並行するホーム同士が一端で繋がり行き来できる構造であり、ホームは全部で1番線から9番線(阪急では「1号線」から「9号線」という呼称を用いている)まである。

 この1号線から9号線の線路は、同一平面上に存在している。

 ……やっぱり言葉では伝わりにくい気がする。

 

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つまり、こういうことだ。

 

 地平線が見える……、とまでは言わないが、1号線から9号線まで全て同一平面上に存在し、かつ一端では繋がっている。

 

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 頭端式ホームとしては日本で最大の規模を誇るのがこの阪急梅田駅。「威容」という言葉がしっくりくる。つやつやにに磨かれたホーム床は清潔感があるし、目まぐるしく発着するマルーンの電車群はいつまでも見飽きない。これはまさしく関西私鉄の雄・阪急電車の城、いや「宮殿」と言ったほうがいいだろうか? とにかく必見の構造物である。

 

 

【南海汐見橋線がすごい】

 

 阪神電車は本線の尼崎から大阪ミナミの繁華街・なんば方面へ抜け、近鉄との相互乗り入れを行っているが、この尼崎~なんば間を結ぶのが阪神なんば線である。なんばの一つ手前にある桜川駅は真新しい地下駅であるが、その地上出口の目の前にあるのが「南海電車汐見橋駅」である。何故か全く違う駅名の両駅であるが、桜川駅の構内にも汐見橋駅への乗り換え案内は出ている。

 

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こんな新しい駅の、

 

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案内にしたがって地上に出ると、

 

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あるのがこの駅である。

 

 同行の柏餅くんが言葉を喪った。桜川駅から地上へのエスカレーターはタイムマシーンか何かだったのではないか。南海はまぎれもなく関西の大手私鉄の一角であるが、目の前にあるのは昭和のローカル線の終着駅である。関東で言えばどこが近いだろう……? 工業地帯の真っ只中にあるJR鶴見線の駅が似た雰囲気だけど、すぐ側に乗換駅があり、人の往来もそこそこある、という点ではやはりこの汐見橋駅の方が不思議さの度合いが高いように思う。

 

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改札口もこの雰囲気。見慣れたはずの自動改札機が異質にすら思えてくる。

 

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券売機は一台のみ、電車は一時間に二本。大都市のローカル線だ。

 

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 駅舎からスロープで繋がるホームにはわれわれ同様、この汐見橋線そのものに興味を持ってやってきたと思しき乗客が数グループ。二両きりの電車は高速道路(阪神高速15号線)沿いをゆっくりと走り、工場の名残かと思われるがだだっぴろく何もない駅前の木津川、下町の住宅地のど真ん中に位置する西天下茶屋などを抜け、十分足らずで本線(高野線)との接続駅である岸里玉出に到着する。岸里玉出駅汐見橋駅とは対照的な高架のホームで、関西空港への特急なども行き交う。その本線ホームからは少し離れたところでぽつんと泊まる二両の汐見橋線は、やっぱり何とも言えない趣深さ、流行りの言葉を使うならば「エモい」という言葉がしっくりくる。

 

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エモい(岸里玉出

 

 

【京阪の8000系がすごい】

 

 大手私鉄各社の「特急」はそれぞれに個性があり、事業者ごとの個性や考え方が浮き彫りになっていると思う。

 例えば箱根という一大観光地を持つ小田急の特急は「ロマンスカー」で乗車券のほかに全席指定の特急券が必要、展望席も備えたハイグレードなものだし、成田空港と都心のアクセスを担う京成の特急「スカイライナー」も全席指定。これらは「特別急行」の名に恥じない専用車両を用いて運用される一群である。関西の大手私鉄では名鉄近鉄・南海の三社が有料特急を走らせている。

 

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小田急自慢のロマンスカー「GSE」(本厚木)

 

 一方、通勤需要の方が圧倒的に高い京王や東急のような事業者においては、「特急」と言っても単に停車駅が少なく速達性の高い種別、ということになる。これらの「特急」はいずれも乗車券だけで乗れるし、車両も各駅停車と同じ形である。関西では阪神と阪急がそう。

 

 

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一般型車両で運転される阪急の特急(西宮北口

 

 両社の折衷に当たるのが、基本的には専用の車両を使って運用されるが特別料金が不要な「特急」を走らせている事業者。例えば関東では京急が、最優等列車である「快特」にはラッシュ時間帯を除き2100形という各車両二つドア・全席クロスシート(二人掛け席)の車両を充当しているし、阪急も元々京都線(京都~梅田)の特急には6300系という全席クロスシートの車両を用いていた。

 この項でご紹介するのは京阪の、「乗車券だけで乗れる・二つドアの・全席クロスシートの車両」である。

 

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京阪の特急専用車両8000系(丹波橋

 

 京阪が1989年にデビューさせた特急専用車両がこの8000系。元々3000系という、同様のスペックの特急専用車がいたのだが、それを進化させ、更に近年リニューアルを経て塗装も一新、愛称「エレガントサルーン」の名に恥じぬ看板車両である。登場時から中間に二階建て車両を挟み込んでいたことも特筆すべき点と言えるだろう。またリニューアルに際して「プレミアムカー」と呼ばれる有料指定席車両も組み込み、ラッシュ時にも着席確保が出来るようになった。

 先頭車は運転席のすぐ後ろにも座席が設けられ、見事な全面眺望を楽しむことも出来る。

 

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運よくありつけた最前部の席

 

 関西の大手私鉄は各社個性的な車両が多いが、その中でも京阪8000系のホスピタリティ、特急という種別に関してのブランディングは出色のものがあるように思う。

 

 

近鉄の特急の喫煙ブースがすごい】

 

 禁煙ブームが叫ばれて久しい。久しい、というか、もう喫煙者としては立つ瀬がない。関東はJRも大手私鉄も駅構内は全面禁煙化されてずいぶん経つし、鉄道の車内での喫煙など滅多なことでは出来ない。もっともそれは時代の流れを考えれば無理からぬことであるし、喫煙者としても甘んじて受け入れて行かなければいけないところであろう。現在全国の鉄道で「走行中にタバコが吸える車両、もしくは喫煙ブースを設けている車両」がどれぐらいあるか調べてみたところ、新幹線の一部車両や寝台特急が喫煙可能である以外、原則として喫煙可能な車両というのはもう存在しないようだ。可能、と言っても喫煙ブースである場合がほとんどで、ごく限られたスペースに喫煙者は肩をすぼめて紫煙をくゆらせるのである。

 筆者が大学生だった頃(二〇〇〇年代初頭)にはまだ、JRの在来線に喫煙者を繋いだ特急や快速が走っていた記憶もあるが、……繰り返しになるが、これも時代の流れ、仕方のないことだ。

 

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東海道新幹線の喫煙ブース

 

 そんな中、私鉄としては日本で最も長い路線を誇る近鉄には現在も「喫煙可能な車両」を設けている。これは私鉄としては唯一のものだ。伊勢志摩への観光特急「しまかぜ」や、名古屋と京阪神を結ぶ「アーバンライナー」用の車両は全車座席禁煙ながら喫煙ブースを設け、「一般特急」と呼ばれる特に名前のない特急(近鉄は路線が広範囲に渡るため、多くの有料特急が走っていることも魅力の一つである)は一部車両客室を喫煙車として開放し、座席での喫煙を許可しているのである。

 今回関西私鉄めぐりを行ったわたしは喫煙者、柏餅は非喫煙者であるが、「おまえが吸うぶんには別に構わない」というスタンスの人。ホテルは喫煙可能な部屋を予約してくれたし、近鉄特急のチケットを買う際にも、

「せっかく喫煙車付いてるんだったらそっちにしようか」

 と気遣ってくれたが、煙たいなか短からぬ時間座らわせるのも申し訳なく、喫煙ブースがすぐ側にある車両の座席にしてもらった。

 この「喫煙ブース」がすごかった。

 

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ワンルームマンション?

 

 こんなに居住性の高い喫煙ブースでいいのかおい、とたじろいでしまうほどの広さ。窓のサイズも客席のそれと変わらず、ご覧のように大変広い。われわれがこの特急に乗ったのは奈良県の大和八木から三重県近鉄四日市までの区間だが、車窓は山間部から平野、広い河川を渡る鉄橋と目まぐるしく変わって行く。もちろん客席(有料特急券が安く感じられるほど広々とした、フットレスト付きのリクライニングシートである)で寛ぎながら眺めるのが一番いいに決まっているが、喫煙室からも十分楽しむことが出来るのだ。「喫煙ブース」というと薄暗く狭苦しいところと相場が決まっているが、近鉄特急の「すべてのお客さまにゆとりを」という姿勢は評価していいと思う。

 

 余談だが、われわれが近鉄特急の乗り心地を楽しんでいたのは、ちょうどこの後四国から関西地方を直撃する台風二〇号が接近しようとしていた時間帯。強い雨が降ったかと思えば晴れ渡り、そうかと思えば晴れ渡った空から大粒の雨から降りしきるという不安定この上ない空模様であった。特急は大いに遅れていたが、車窓からは二度にわたり見事な虹のを楽しむことが出来、そういう意味でもよい旅路だったことを書き添えておきたい。

 

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こんなに近くで虹を見るのは初めてだった。

 

 

阪神は尼崎駅でのバリアフリーの手段がすごい】

 

 梅田から神戸三宮・元町を結ぶ阪神電車優等列車がオレンジ色、普通列車が青色と、運用ごとにぱっきりと車両の塗装を分けているのが車両面での特徴的だ。路線の総延長が短く本線以外には武庫川線と言う小さな支線があるだけ、規模で言えば小さい阪神電車であるが、その分「車両の塗装で種別を(おおまかに)判るようにしとこう」という発想は見事と言うべきだろう。

 

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オレンジ色の「急行」梅田行き

 

 ところで阪神と言えばもちろんプロ野球阪神タイガース。永遠のライバルである読売ジャイアンツのチームカラーがオレンジなもので、梅田から甲子園へ応援に行く阪神ファンから「何で巨人色に塗ってしまったのか……」という呟きが漏れるのは年中行事。最新車両の1000系など、非常に格好いいのだが、どことなくジャイアンツのマスコットキャラクター「ジャビット」を想起させる前面デザインであるように思う。

 

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塗り分け方が読売の「Y」っぽい。

 

 さてそんな阪神に見付けた「すごさ」は尼崎駅にある。梅田を出て最初の優等列車停車駅であるこの尼崎は本線の神戸三宮方面からの電車が大阪ミナミのなんばへ直通し、やがて近鉄大阪線に乗り入れ最終的には奈良へと至る阪神なんば線との分岐駅なのだ。神戸方面からやってきて本線を直進し梅田へ向かう特急と、なんば線から近鉄へ乗り入れる快速急行がこの駅で二手に分かれる。

 もちろん梅田に行きたい人は梅田行きに、なんば方面へ行きたい人は奈良行きに乗ればいいのだが、常に都合よく目的の行先の電車に乗れるわけではないことは想像して頂けるだろう。一部の乗客はこの尼崎で目的の電車に乗り換える必要に駆られる訳だ。ところが本線梅田方面の優等列車が停まるホームと、なんば線のホームには間に一本線路が挟まっている。これはこの駅が緩急接続(普通列車優等列車の待ち合わせ)を行う駅であり、この線路には梅田行きの普通が停車して特急を先行させるのだ。

  この、なんば線ホームと本線の優等列車用ホームに挟まれて停車する普通列車が、ちょっとすごいのである。

 例えばあなたが「なんば線方面に行きたいのに、やって来たのは梅田行きの特急。とりあえず尼崎まで特急でやって来た」というシチュエーションだったとしよう。尼崎に到着したらどうするか、……改札前に繋がる階段ないしはエスカレーター・エレベーターなどを使って反対側のホームまで移らなければならない。元気な若い方ならば何ら問題はなかろうが、足の不自由な方や妊娠中の方、小さなお子さんを連れている方……、そしてこのときのわれわれは旅行中で柏餅はカートを、わたしはやたら大きなリュックサックを背負っていて、身軽とは言い難い状況であった。そんな中、「改札前に繋がる階段ないしエスカ以下略」を使って上り下りするというのはなかなか大変であることは想像に難くないだろう。

 バリアフリーとは「バリア」からの解放、すなわち「バリア(障害物)」をなくしてしまうことである。この点、尼崎駅の2番線(5番線)に停車する普通電車は、正しく乗客をバリアから解放(フリーに)する役割を担う。

 この線路上に停車する各駅停車は、左右両方のドアを開けっ放しにするのである。

 即ち、なんば線から本線、あるいはその逆へ乗り換えをする際に生じる段差から乗客を解放してしまうのだ。

 もちろん、左右にホームを配置した駅は珍しくないし、そういった駅で左右のホームに向けて同時にドアを解放する例も少なくない。しかしそれらの多くが「降車客を降車用ホームへ/乗車客は乗車用ホームから」という振り分けのために行われているのに対し、この尼崎駅においては初めから「停車している車両を通路にする」ことが前提に運用されているのだ。

 

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「通路」として停車する「普通梅田行き」の青い電車。

 

 よく考えられたバリアフリーであると、柏餅もわたしも感心しきりであった。

 

 

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 関西圏、京阪神大手私鉄を乗り回って、関東の私鉄には見られない工夫や特色、そして光景を事業者ごとに見て来た訳だが、こうして振り返って見るに、ますます興味が尽きない思いがする。阪急はまだ神戸線に乗ったのみで阪急の大テーマパーク宝塚には足を踏み入れたことがないし、京阪は特急ばかりに目が行ってしまったが日本で最初の多扉車5000系や滋賀県内の石山坂本線は自動車と並んで走る「併用軌道」を持っていてこれまた見に行かない訳には行くまい。南海も今回は汐見橋線という短い支線に焦点を当ててしまったが関西国際空港へのアクセスを無視する訳には行かないし、広大な路線を誇る近鉄をたった一度の乗車で判ったような気になっては失礼である。そしてその近鉄と直通運転を行う阪神も、今回は魅力的な支線である武庫川線に筆を至らしめることが出来なかった。

 そして関西の大手私鉄はこの五社にとどまらない。名古屋を走る名鉄、急襲唯一の大手私鉄である西鉄にも、いずれ触れなければならないときが来るだろう。

 関西大手私鉄の魅力を、今回どの程度お伝えできたかは覚束ない。しかし特に関東の読者諸氏におかれましては、関西に行かれた際には是非関西私鉄を乗り回って、それぞれに魅力を見付けて頂きたいと思うのであります。

 

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阪堺電車もとてもよかった。

行き止まりに行きたくって仕方がなかった。

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おれは今年で36歳になる。BL小説家を目指しているんだけど、未だにプロになれていない。誰に読まれることもない小説を書き続けていて、不安に苛まれることも増えて来た。


「このまま何にも出来ないまま終わっちゃうんじゃないか」

「そもそもおれは道を間違えていたんじゃないか」


自分の歩む人生の道の先が行き止まりだったら……? そんな悲しい話ってないだろう。


でも「行き止まり」ってどんなところなんだろう? 考えてみるとこれまで、「行き止まり」に行ったことってないな……。


人生の「行き止まり」で途方に暮れるおれは、本当の「行き止まり」で何を思うんだろう?


そう思ったので、「行き止まり」を目指して出掛けてきたんですが。


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◆気軽に行けそうな「行き止まり」を見付けた


八王子に住んでいる。中央線の八王子だ。二駅先が高尾で、そこから中央線は急にローカルな雰囲気になる。


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やってくる電車も都心でおなじみオレンジの帯の車両ではない


甲府小淵沢、松本といった行き先の電車に乗り換えて一駅、長いトンネルで小仏峠を越えた先、最初の駅は神奈川県の相模湖。相模ダムがあって、数年前には「ダムマニア展」も開催された場所だ。

八王子民はよく「八王子って山梨でしょー」なんて揶揄されるのだけど、八王子から山梨に行こうとすると神奈川を通るんだってことを覚えておいてもらいたい。


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山が近い。手前が中央線、奥の高架は中央自動車道


調べたところ、相模湖の駅から歩いて行ける距離に「行き止まり」があるみたいだ。しかも途中には滝もある。他にも駅から行ける範囲に「行き止まり」は何箇所かあるみたいだったけど、滝の存在が決め手になってここを目指すことにしたのだ。


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縮尺の都合上2枚に跨って地図


距離的にも、駅から2キロ足らず。どんな道なのか、辿った先にどんな景色が待っているのか、全く想像がつかない。ただ判るのは「山の中だろうな」という点のみ。

人生に行き詰まりつつある自分が「行き止まり」に辿り着いたとき、どんなことを思うんだろう? 徒労感を味わうだけなのか、それとも何か前向きになれるような景色が広がっているのか。


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行き止まりへのアプローチ


いよいよこの先が「行き止まり」だ。正直、ドキドキしている。そのドキドキの半分は期待感だけど、もう半分は「怖い目に遭わないだろうか」というものだ。具体的には、蛇とか蜂とか出たら嫌だな、あとは「ちょっと天気悪くなってきちゃったな」とか「まさか遭難するようなことにはならないよな」とか。

いやいや、天下のGoogleMAPに載ってる道なんだから幾ら何でも遭難はしないでしょ……、でも万が一ということもある。

しかしここで引き返したらおれは「人生の行き止まりにすら行けないで頓挫した男」になってしまう。

すくみそうになる足を叱咤して、踏み出した。行くのだ、おれは行くのだ!

どんなに雄々しい足取りだったとしても、行く先は「行き止まり」なのだけど。


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すぐにこんな砂利の急坂だ


運動用の靴というものを持っていないもので、ちょっと足元が不安定な場所になると途端に膝やら腰やらに負担がかかる。いや、これは靴云々以前の問題として中年だからだ。運動不足を解消しようと時々何キロか歩くのだけど、そういう日の夕方はがっくり疲れて寝てしまう、……BL小説の原稿やらなきゃいけないのに、体力が追い付かない。

「行き止まり」に行くためには体力が必要なのだ。

山の緑の風が吹き抜けるが、蒸し暑く、汗が噴き出してくる。それでも一歩一歩踏みしめて、三分ぐらい進んだだろうか。


信じられない光景を前に、立ち尽くした。


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「立ち入り禁止」


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「クマ出没注意」




◆「行き止まり」にさえ行けなかった男、さまよう


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別の道を辿って引き返したら、とてもハードコアな階段があった。高所恐怖症なので辛い


雨が降り始めた。

「人生の『行き止まり』で途方に暮れるおれは、本当の『行き止まり』で何を思うんだろう」と思って出掛けて来たが、そもそも「行き止まり」にさえ辿り着けなかった。

しかもクマが出る。クマは怖い。


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普段あんまり甘いものは食べないのに衝動買いした

 

雨はどんどん強くなり、やがて雹が地面を叩き始めた。傘を持って来てよかったな……、呆然としながら食べるエクレアはぜんぜん甘くなかった。


このまま帰ってしまおうか、という気持ちが湧いて来た。しかしせっかく交通費をかけて出掛けて来たのに何の収穫もなく帰るのも悔しい。雨宿りをしながら考えた挙句、小止みになった雨の中、意を決してもう一つの目的地に向けて歩き出すことにした。


◆高速道路を渡った先に神社がある


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鳥居の先の石段、妙なところで切れてると思いませんか


相模湖駅のほど近くに、與瀬(よぜ)神社、という神社がある。

先ほどおれが目指した「行き止まり」に向かう途中、駅から5分ほど歩いたところにある神社である。拝殿は相模湖駅の北に聳える山の中。

ここでさっき、「山が近い」ってキャプションを付けた写真を再掲しますね。

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中央道の向こうはすぐ山で、背後には相模湖を見下ろせるというロケーション


相模湖駅周辺は北から「山>{中央道>中央線>甲州街道国道20号線)}>相模湖」といった具合の位置関係になっている。{}でくくった範囲は狭くて、甲州街道が中央道の北に出るところもあるんだけど、だいたいこんな感じ。で、與瀬神社の参道は甲州街道にあり、繰り返しになるけど拝殿は山の中にあるのだ。


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甲州街道にあるバス停の名前は「与瀬」神社前


つまり、山の中にある拝殿に行くためには、何らかの形で高速道路を越えなければならない、ということになる。

その結果、この神社はとても特徴ある石段を備えるに至った。


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神社の石段……、と呼ぶには妙にインダストリアル


急な階段を登ったところに見えるのは、山にへばりつくように敷かれた中央道。


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紛う方なき自動車道


つまりこの神社の石段は高速道路を跨ぐ歩道橋の役割を併せ持っているのだ。


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ガチで高速道路

 

山と湖に挟まれたこのエリアにある神社ならではのアプローチだ。


おれは免許を持っていないんだけど、たまに人の車に乗せてもらって高速道路を走ると時たま現れる「歩道橋のような何か」が昔から気になっていた。高速が出来て自由に行き来出来なくなった住民のための歩道橋なんだろうな、と察してはいたけれど、その中の一つがまさか神社へのアクセスだとは思わなかった。

たぶんこの橋の下を潜り抜ける車の運転手たちも気付いていないんじゃないか。


せっかくなので、このまま神社にお参りをして行こう。


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次来るときまでにちゃんと歩くのに適した靴を買おうと決意した瞬間


踏みしろが小さい上に急な石段(こんどはちゃんとした石段)を登った先、雲間から差し込む陽射しに照らされた與瀬神社の拝殿が姿を現神社のた。


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神々しい


写真では判らないけれど、雨に濡れた屋根から、初夏の陽射しを受けて湯気がたなびいている。昔読んだ本に「水蒸気は日本の風景美を形作る要素」みたいなことが書いてあったことが思い出された。

しかし、こんなに静かな景色なのに、高速道路を走る車の音が途絶えることなく聴こえてくるのが何だかおかしい。これももちろん、写真では伝わらないんだけど。


「行き止まり」に辿り着けず、雨に降られてすっかり萎んでいたが、境内でぼんやりと過ごしているうちに何だか元気になって来たのを覚える。

要は、まだまだおれは「行き止まり」を意識するには早過ぎるってことなんじゃないだろうか。たださまよってるだけで。でもさまよい歩いて面白いものが見られるなら、それもそれでありかもしれないな……、なんて気持ちが湧いて来る。


いい話で締めくくろうと思ったが、


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雨に濡れたこの石段を下る勇気はいつまで経っても湧いてこなかった。


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急な石段は、高所恐怖症のおれには辛い。そもそもこの靴では怖い。しかし神様(與瀬神社は日本武尊が御祭神)は優しい。緩い坂もちゃんと設けてくれている。男坂と女坂って呼んでいいのかな。


女坂を下る途中、雰囲気のいい林道が見えたのでそちらに寄り道して帰った。


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この神秘的な雰囲気(そして右下から這い上がって来る高速の音よ)


この日も帰ってから、やっぱり昼寝に落ちてしまったのだけど、不思議なことにきっかり30分で目が覚めて、BL小説の原稿を進めることが出来た。いつもより随分と捗った。

「脇目も振らずに頑張る」のもいいけど、そうやって行き過ぎた果てにあるのが「行き止まり」なのかもしれない。だとしたら時には気分転換も大切なのかもしれない……、なんてことを、ちょっと考えた。


でもやっぱり行って見たいよなあ……、「行き止まり」に……。


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凝りもせずまた「行き止まり」を探している

風邪が治らない(2017年のこと)

数ヶ月ぶりのblog更新である。せっかくだから去年を振り返ってから書くことにしよう。

去年は個人的にいくつかの大ニュースがあって、一年があっという間に過ぎ去ってしまった。めくるめく、めまぐるしい、そんな年だった。



水中、それは苦しい と 左右 のライブを観に行った】


もともと人の多いところが得意でなくて、音楽にもすっかり疎くなっている。そんな中にあって一昨年知った「水中、それは苦しい」と「左右」のライブに行くというのは、自分にとって間違いなく大きなことだった。

人生初ライブは三月、水中、それは苦しいの、レコ発ツアー。東京でのライブが行われる日、たまたま休日で、Twitterを見たところ当日券があるというので一念発起してリプライで予約。右も左もわからん状態で緊張しきりだったのだけど、気付けば初めて聴くロックバンドの生音に酔いしれていた。

人見知りの自分を知る人には「うそ!?」って驚かれることではあるのだが、終演後にはバンドメンバーのところへ挨拶に行き、一緒に写真を撮って貰った。

以降、水中、それは苦しいのバンドとしての公演、ギターボーカルであるジョニー大蔵大臣のソロライブにも足繁く通うようになった。のみならず、ジョニーさんの痺れるような格好良さに憧れて、三十路も半ばにしてギターを買ってきて、練習するようになっている。

左右のライブを観に行ったのは五月、こちらも左右のアルバム発売記念ライブ。元々デイリーポータルZの動画コンテンツ「プープーテレビ」にご出演だった花池さんが大好きで、このライブからひと月前、ジョニー大蔵大臣+花池さん+ギチというメンバーによる大喜利イベントでジョニーさんとの再開と、花池さんとの初対面を果たしていたのだが、音楽となるととことんまでにクールな「左右」に圧倒された。

左右の花池さんと桑原さんはともにデイリーポータルZのライター大北栄人氏の主催するコント集団「明日のアー」が昨秋上演した「日本の表面」に客演されていて、演技でも強い存在感をいかんなく発揮されていた。もちろん、これも観に行っている。

左右も、水中、それは苦しいも、もっともっと注目されてしかるべきバンドであると思う。

もちろんそんなことは、こんな辺鄙なblogでおれが言うまでもないことなんだろうけど。


【斎藤充博氏と一緒に同人誌を作った】

昨年11月に行われた「第2回WEBメディアびっくりセール」合わせで斎藤さんが頒布した新刊「BLってよくわかんないから自分を素材に作ってみた」に、BL小説家として参加させていただいた。経緯はこのblogで既に書いた通り。

自分はいまだ小説家にはなれていない人間ではあるけれど、それでも意識だけは高く執筆に励み、これまで(個人で同人誌を作っていた頃)とは比べ物にならないほど多くの方に小説を読んで頂けたことはかけがえのない経験だ。

この同人誌、まだ在庫があるみたいなので、欲しい方はぜひ斎藤さんに訊いてみてください。


【このblogがデイリーポータルZに!】

斎藤さんや、同人誌製作で知り合った井口エリさんのすすめでこのblogを書くようになったんだけど、もののためしというか、「小説以外の自分の文章ってどうなんだろう?」という軽い気持ちでデイリーポータルZの投稿コーナーに送ってみたところ、京急800形の記事が掲載されることとなった。

これには本当に嬉しく思ったし、また驚きもした。小説ではないにせよ、自分の書いた「文章」が何らかの形で評価され、多くの人の目に触れたという経験は、これまでどれほど望んでも叶わなかった願いだったから。

一方で、「ライター」という仕事の大変さ、キツさ、しんどさ、凄さ……、の片鱗も垣間見たような気持ちである。これを毎回毎回やったんだ斎藤さんたちは……、すげえ……、おれにはちょっと真似できんぞ、と(そんな次第でここんとこしばらくblogを書かなくなってしまっていた)



いろんなことがあった2017年が過ぎ、2018年を迎え、もう二月も半ばを迎えている。

去年は色々と新しい出来事があって気が張っていたのか、一度も風邪をひかずに済んだんだけど、ぼんやり過ごしていた先週、ガタガタっと体調を崩していまも風邪が治らない。年末、またひとつ歳をとって、すっかり中年、抵抗力もだだ下がりなのだ。

このblogもベッドの上で唸りながら書いている。

みなさまにおかれましては、どうぞご自愛ください。


玉子焼きをデザートにしちゃえばいいんじゃない?

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「お寿司屋さんの玉子焼きはデザートの甘味」みたいな説がある。でもデザートをご飯に乗せて食べるって、何だか妙な気もする。食事とデザートがシームレス過ぎるっていうか。


どうせなら、もっとちゃんと「デザート」にしちゃえばいいんじゃない?


そう思ってやってみたら、BL小説家を目指す自分を見つめ直すことになりました。


===


◆料理は苦手じゃない


普段から家で料理をしている。そんなに手の込んだものを作るわけじゃないけど、まあ、一般的な飯のおかずを作ることにはそれほど苦労しない。


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しっかりめに味をつけたナポリタン


「玉子焼きをデザートにしよう」と思い付くと同時に頭に浮かんだのは、「プリン」だった。プリンなんて作ったことないけど、要は玉子を甘くして固めたものだろう。それなら玉子焼きの卵液にちょっと手を加えたら簡単に出来そうだ。


早速、簡単なプリンのレシピを読んでみる。

材料は大体こんな感じだ。


卵 2個

砂糖 50g

牛乳 250cc


うむ。冷蔵庫の中のものだけで作れそうだな。

早速準備に取り掛かろう。

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玉子を2個に


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砂糖を50g(うちは黒っぽいお砂糖を使っています)


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牛乳を……


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にひゃくごじゅ……


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……


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みかん味のフルーチェ


えらいことになってしまった。「料理は苦手じゃない」なんてどの口が言うのか。いやしかし、曲がりなりにも玉子だ、火を通せばちゃんと固まってくれるはずだ。

そう自分に言い聞かせながら、火を入れる。


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玉子焼きじゃなくてプリンだからバターを溶かして


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卵液を入れて……


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離乳食?


わかってたさ……、固まるわけがないじゃないか、明らかに牛乳の量が多すぎだもの!

しかしプリンのレシピの通りに作ったんだ、これは形こそ違えどプリンである、誰が何と言おうとプリン以外のなにものでもない。

試食してみる。




……考えてみるとおれ甘いもの好きじゃなかったな。友達が甘い飲み物すごく好きで、一口もらうことがあるんだけど、いつも甘すぎて震えている。たぶん甘いものへの耐性が人より弱いんだろう。甘すぎるものを食べると震える。甘すぎて苦味さえ感じる。めまいを覚えて畳の上に倒れ伏した。


完全に失敗だ。



◆トライアゲイン


とはいえ「失敗だ」で終わらせるわけにはいかない。

何でって、さっきの試作品を作るのに使った卵液は全体のごく一部。まだトータル300ccは残っている。


どうにか起き上がって(ほんの少量食べただけで胃もたれがすごい)冷静に考えてみる。課題は主にこの二つだろう。


1.牛乳の量が多すぎた

2.砂糖も、あったかい玉子焼きを作ることを考えると多い


ひょっとしたら「3.アイディアに問題がある」という看過しがたい点が失敗の原因なのかもしれないけれど、ぼくが普段から書いている小説もそうだ(ぼくはBL小説家を目指しています)

多少アイディアに問題があっても、書きようによって面白い話にすることが出来ることは経験上、判っている。

問題は「その出来上がったものを投稿しても賞に引っかかったことが一度もない」ということなのだけど、それはこの玉子焼きとは関係ない。


さて、二つの問題を同時に解決するにはどうすればよいか。


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玉子を追加すればよい


玉子を新たに2個増やして、これに先ほど作った卵液を加えることで味と固まりやすさの両方を一挙に解決出来るのでは……?

卵液の量は、なんの根拠もないけど100ccにしてみよう。


菜箸でよーく混ぜて、再び鍋を熱してバターを溶かして、いざ再戦!


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おっ!


薄焼き玉子らしきものが出来てきたぞ!


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後で気が付いたけど鍋の使い方間違ってるな……(たぶん奥にカタマリを寄せて手前に卵液を入れるんだと思う)


二回、三回と薄焼き玉子を巻いていくうちに、どんどん「玉子焼き」の体裁をなすものが出来上がっていくではないか。

しかし漂う匂いはすごく甘い。見た目は玉子焼きなのに甘ッたるい匂い、五感の中で起きるパラドックス。しかし今は視覚と嗅覚が一対一で真っ向から対立しているけれど、味覚が加われば多数決で納得行くものになるはず!



◆実食!


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奥の小皿はカラメルソースですがこの後固まって使い物になりませんでした


どうだ。

見た目は完全に玉子焼きだ。

ちょっとゆるくて色白だけど、でも、これは玉子焼き以外の何物でもない。

だが問題は味だ。さっきみたいに甘すぎたらどうしよう……? 恐る恐る、口に運んでみると……。


あったかいプリンだ。

ちゃんとカスタードの味だ。

でも食感は玉子焼きだ。


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断面もこの通り


大成功である。「デザートになる玉子焼き」がここに完成した。当初のアイディアの問題を、後付けの思い付きによって見事に克服することが出来たので大満足である。


ただ、これ一切れで十分だな……、だっておれ、甘いもんそんな好きじゃないから……。


===

 

◆でも甘いもんそんな好きじゃない


BL小説家を目指す上で、ぼくが超えるべきハードルは多い。歳も歳だし、そもそも男だし、このところ「ほんとになれるのかな……」と不安になるシーンが増えた。思いつくネタ思いつくネタ、「こんなのBLで書いていいの?」みたいなものばっかり。それでも必死に知恵を絞って書き上げて、賞に引っかからないなりに、少しずつ投稿先の編集者さんから褒めて貰えることも増えた。

思いつくネタというのはぼくの中から生まれてくるもの。そしてそれをどう料理して作品に仕上げるかというのも、ぼくに委ねられている。ネタがBLとして奇妙なものばかりになりがちなところは、やっぱり技術を磨いてカバーして行くのが大事なんじゃないか。

今回のチャレンジは、ネタから作品へと至るプロセスを見つめ直すいい機会になりました。


むりやり小説の話で締めようとしてるのは、まだ大量にある卵液をどうしたらいいのかというアイディアが全く浮かばないからです。


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誰かぼくにいいアイディアをください

京急の800形が可愛すぎてやばい。

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夏の夕方ド順光で白が映える(仲木戸


首都圏の大手私鉄の一つ、京浜急行(以下「京急」)は鉄道ファンの中でも特に人気があるようだ。ぼくはもともと京王線沿線で暮らしていたのだけど、数年前に友人が京急沿線に引っ越してから頻繁に乗るようになり、すっかりその魅力にとりつかれてしまった。

特に800形という車両の可愛さに、すっかりメロメロなのだ。

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◆800形が可愛すぎる

京急の電車には「快特」という種別がある。品川を出たら、次は京急蒲田、その次が京急川崎、横浜……、主要な駅だけ停まる速達性に加えて、ラッシュ時を除けば「2100形」という二人がけシートがズラリと並ぶ特別な車両を使って運用される、フラッグシップである。

しかし、今回ぼくが取り上げるのは「800形」という電車である。
この電車が、ものすごく、可愛いのだ。


◆800形は顔が可愛い

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発車を待つ800形(京急蒲田

これが800形である。いや、800形ちゃんである。
まるみを帯びた顔の、おでこに前照灯
京急のイメージカラーである赤を纏いながら、額縁型に白を配して、暑苦しさは全くない。
運転席の窓も大きくて、視界良好。
そして裾に二つあるテールランプ。
800形ちゃんは1978年生まれ。40年近く前とは思えない、可愛らしいデザインではないか。
詳しくないのであまり言うべきではないと思うんだけど、「ハッカドール3号」に似てはいないだろうか、いや、色ではなく、顔立ちが……。
これ言うんじゃなかったな、共感されたことがないんだ。


◆800形ちゃんはドアが可愛い

800形ちゃんは首都圏の通勤電車で一部の例外を除き「唯一」の装備を持っている。

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それが、この「片開きドア」である。

あなたがふだん乗ってる通勤電車のドアを思い浮かべてほしい。真ん中から左右にパカッと開く「両開きドア」ではないだろうか?
この「片開きドア」は、はっきり言ってしまえば古い。ラッシュ時には一刻も早くドアを閉めて発車してしまいたいところ、ドアの開閉に両開きドアより時間がかかってしまう。だもので、現在ほとんどすべての通勤電車は両開きドアを採用している(江ノ電など例外もあります)
しかるに1978年生まれの800形ちゃんは片開きドアを備え、現在も現役の通勤電車として活躍しているのである。

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窓とドア窓のバランスも絶妙でしょう。あと椅子のカバーがブルーなのもいいよね〜(多分京急川崎付近)


◆800形ちゃんはスペシャリスト可愛い

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通過待ちをする800形ちゃんの後ろ斜め45度(生麦)

800形ちゃんは現在(ダイヤの乱れなどが起こらない限り)「地上線の普通列車専用」で運用されている。
これはどういう意味かと言うと、「品川〜京急蒲田金沢八景新逗子浦賀京急久里浜」の区間を各駅停車で走る電車にしか使われないということ。京急蒲田から羽田空港に向かう空港線は途中駅にホームドアが設置されて以来、ドアの数が他の車両と違う800形ちゃんは入れなくなってしまったのだ(それ以前は羽田空港の地下駅に出入りする800形ちゃんの急行はあったし、更に言えば羽田空港の地下まで京急が乗り入れるようになる以前は京急蒲田羽田空港旧駅の間を800形ちゃんが往復していた)
また正面に非常用出口が設置されていないので地下鉄浅草線との接続駅である泉岳寺にも入れない。また京急川崎から枝分かれする大師線にも、4両編成までしか入れないため、6両編成で一組の800形はやはり入れないし、京急久里浜から先、終点三崎口までの区間も多分現在は足を踏み入れてはいないはずだ。
また、エアポート急行、特急、快特といった通過駅のある種別に使われることも(ダイヤ乱れのときを除けば)ない。結果として、普通列車専用の、言ってしまえば地味な存在である。
しかし、800形ちゃんはその仕事のスペシャリストなのだ。
起動加速度3.5km/h/sという加速性能を備えている800形ちゃんは駅を出るなり素早く最高速度まで引っ張ると、すぐさま減速して次の駅へと滑り込む。短距離の加速→減速が必要とされる普通列車には、加速に時間を要する他の車両よりも適しているのだ。
この性能ゆえに、すぐ後ろを快特エアポート急行に迫られながらも、追い越し設備のある駅まで逃げ込むことが出来る。
可愛い顔してハイスペックのスペシャリスト、もはやこれは萌えの塊と言ってしまっていいのでは。


◆復刻800形ちゃんもとても可愛い

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もちろんノーマル800形ちゃんも可愛い(日ノ出町にて)

現在は赤いボディに白い細帯というサイドビューの800形ちゃんだが、デビュー当時は窓周りを白く塗った鮮烈なカラーリングであった。
しかし800形ちゃんのデビューから4年後に登場した、「快特専用車両」である2000形が同様のカラーリングで登場すると、この塗り分けは快特専用車の代名詞となり、800形ちゃんは在来車両と同じ、現行の「赤地白帯」に塗色変更が施されてしまった。
しかし時は流れ2016年。かつて「快特専用」だった窓周り白のカラーリングが、いつしか後発の電車に当たり前のように施されるようになったのみならず、「快特専用」から退いた2000形に復刻企画として窓周り白カラーリングがなされるようになっていた中、とうとう800形ちゃんにもあのデビュー当時の晴れ姿を披露する時がやって来たのだ。

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これが2000形の復刻塗装(仲木戸

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そして800形ちゃんの復刻塗装! パスモキャンペーンのステッカー付き(京急蒲田

顔は以前と変わらず美白の800形ちゃん、サイドビューもビビッドな赤白ツートンカラーリングとなって、明るく軽やかで爽やか!

春先にはキャンペーンで「京急ラブトレイン」車両としてラッピングされていました。可愛すぎる。


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「ラブリー」以外の言葉が思いつかない(日ノ出町

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◆残り時間は短くても

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後続のエアポート急行から逃げるために俊足スタンバイ中(京急鶴見

かように愛らしさの塊のような800形ちゃん、しかし既に製造された車両の半分は廃車されてしまっている。デビューから40年、というのは人間で言ったらそろそろリタイアという時期なのである。

しかしまだまだ京急普通列車で自慢のスプリント能力を披露している800形に乗ることは可能! この記事を読んでくれた皆さんは、是非とも彼がまだ元気でいるうちに強烈な加速性能とフォルムからほとばしる愛らしさを味わいに、京急沿線へと足を運んでみてはいかがでしょうか。

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「第二回ウェブメディアびっくりセールの会場は京急蒲田だよ〜」(京急蒲田

斎藤さんの結婚式の二次会にBL小説家志望として行ってきた。

さる11月11日、ウェブライターで指圧師の斎藤充博さんの結婚式が催された。ありがたいことに二次会にお誘いいただいたので、ふるえながら参加してきた。

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◆斎藤さんのBL小説を書いていた

ウェブでよみものを嗜む人々にとって「斎藤充博」は見慣れた名前だろうからわざわざ紹介するのはやめよう。愉快で元気で時々つらい35歳である。斎藤さんとぼくは同い年で、知り合ってかれこれ6年。とはいえ相変わらず敬語でやり取りし合っているから、「友達」なのかも判然としない。ただ、ぼくは斎藤さんが昔から好きなので、斎藤さんにもぼくをもっと好きになって欲しいな……、と思っている。
そんな斎藤さんが突然連絡をくれたのは今年の春のこと。

「おれを主人公にBL小説を書いてくれませんか、そういう同人誌を作りたいので」

このへんのことについては、既に斎藤さんがここ(http://nlab.itmedia.co.jp/nl/spv/1711/02/news005_0.html)でガッツリ書いて下さっているんで、全体的なことについては書かない。
紆余曲折あって、本は無事に刷り上がった。しかしイベントは11月18日、本の刷り上がりは11月の初旬である(この時期に斎藤さんがTwitterに本の実物を上げていた)普通、即売会に合わせて印刷所に本を頼むようなときは、イベント当日に会場へ直接搬入ふるもんなんだけどな……。
ぼくを含む参加者たちは訝っていたと思う。その上斎藤さんが、
「この本、結婚式の二次会で参加者に配ります」
こんなことを言い出したときに「あんた何言ってんだ!」って思ったの、たぶんぼくだけじゃなかった。

ここでぼく自身のことを少しだけ書かせてください。
ぼくはBL小説を書いている。趣味で書いているのではなく、本気で、プロになりたくってBL小説を書いている。でも現状、なれていない、なれる気配がない。
たくさんの人に読んでもらいたい、そう願って書いている。でも書いても書いても、リアクションは薄くって、つらい。同人誌作りも費用対効果が悪くてやめてしまった。
そんなぼくに斎藤さんが「小説を書いてくれ」と言った。依頼をされたとき、ぼくは即諾したのだけど、最大の理由は、
「斎藤さんに小説を読んでもらえる!(以前、斎藤さんに取材をして小説を書いたことがあって、その完成原稿を送ったんだけどどうも読んでくれていない様子だ)」
と思ったから。それぐらい、感想に飢えていた。

それをまさか、結婚式の二次会で参加者に配るとは。っていうか依頼された段階では、斎藤さんが結婚してるなんてことも知らなかったんだけど!
怖いな、と思う反面、
「こんなにたくさんの人に読まれるの初めてだ」
って、興奮を催している自分がいるのも事実。だってぼくは、読者さんが欲しかった。喉から手が出るほど欲しかった。
でも、やっぱり怖い。

そして迎えた斎藤さんの結婚式の二次会当日。到着したぼくを出迎えてくれたのは、
「これ、引き出物……? 引き出物っていうか、おみやげです」
という言葉とともにお手伝いの方から手渡された、刷りたてほやほやの新刊同人誌、
『BLって何だかわかんないから自分を素材に作ってみた』
である。
感動か、興奮か、それとも恐怖か判らない震えを催しながら会場となったレストランに入ると、……場内のほとんどの方が、『BLって〜』を手に持ち、ページをめくり、あるいは読みふけって、いる。
ぼくの小説を読んでくださっているのかは、判らない。でも、その本には間違いなくぼくの書いた小説が載っているんだ。
小説原稿を書き上げてから随分経つけど、当時の苦労が少しだけ蘇り、形になる前に溜息に混じって消えて行きそうな気持ちだった。


◆「ナマモノBL」なんて書くの初めてだった

斎藤さんに「ぼくを題材にBL小説を書いてください」と言われて、読者さん欲しさに請け負ったはいいけど、ぼくはこれまで「ナマモノBL」なんて書いたことも読んだこともなかった。そういうものがあるらしいぞというのは知っていたけれど、実際ぼく自身が三次元の誰かに、執筆へ向かわせるだけの強烈な「萌え」の感情を抱いた経験はほとんどない。
そこへ来て、自分と同い年の、要するに「おっさん」に「おれをBLの主人公にしろ」と言われたのだ。冷静になるにつれて、指先が冷たくなるような気持ちに陥る。
不安を口に出せないままでいるうちに、斎藤さんが玉置標本さんに相手役のオファーを出してくれてしまった。玉置さんの記事はたくさん読ませて頂いてきたけど、ご本人とお会いしたことはただの一度もない。雰囲気も判らない。どうしよう? でももう後には引けない、「玉置×斎藤」小説を書かなければいけない。
これは、率直に言おう、大変だった。
そういうBLが好きな方も多いからこんな言い方しちゃいけないんだけど、ぼくは「おっさん」に萌えることはない。可愛いのが好きで、言ってしまえばショタコンでありロリコンである。そんな男がおっさん同士のBLを……?
斎藤さんは可愛らしい顔をしている、玉置さんは目鼻立ちくっきりで男らしい。しかし、しかし、……おっさんはおっさんじゃないか……!

ぼくにとって救いだったのは、玉置さんのこの記事(http://portal.nifty.com/kiji-smp/120315154293_1.htm)だった。
そもそも、玉置さんと斎藤さんは「TANDEM」という、二人羽織のバンド(記事読まないとよくわからんだろうけどそういうバンドがあるんですこの世には)のメンバー同士なんだ。しかもこのときの二人はプロのメイクアップアーティストさんの手によって、まるでマンガから出てきたみたいにお美しくなっている。これだ!
筆が進み始めた。ぼくの脳内のおっさん二人が、物憂げでナイーブなヴィジュアル系バンドの二人に変身して、もどかしい思いを輝きとともに解き放ち始めた。作中にはデイリーポータルZ編集部の古賀さん・安藤さん・石川さんのお三方にも登場して頂いた。特に古賀さんは、一歩を踏み出せない作中斎藤の背中を押す、姉御的な役を担って頂いた。自分はおっさんのみならず女性を書くのも得意ではないんだけど、古賀さんは上手に書けた……、と自負している。
かくして、小説は完成した。

苦労というほどでもなかったな、小説を書こうと思ったらもっとしんどいことも、いくらだって起きる。でも書いたものを読んでもらえたとき、その苦労は一瞬にして報われるのだ。

会場を見回すと、やっぱりたくさんの人が本を読んでくれている。夢みたいな景色だった。もう、この景色を見られたら帰ってもいいぐらいだ……、そう思ったけど、斎藤さんのBL小説を書いたぼくにはもう一つしなければいけないことがあった。



「あの、あの、は、は、はじめまして、小説を書かせていたただだきました村岸健太と申します!」
ハイボールを流し込んで勢いのままに、ぼくは同じ本に可愛い斎藤さんの漫画を寄稿された米田梅子さんと共に、白いドレスの女性にそう挨拶をした。丁寧さを心がけた結果、挙動不審を二歩も三歩もオーバーしたような状況のぼくを見て、にっこりと、美しく微笑んでくださった。
何をお話ししたか、よく覚えていない。なんだか、ぼくはただただ「すみません、本当にすみません」と謝っていた気もするのだけど、それも定かでない。確かなのは、この女性がぼくの書いた「斎藤さん受の小説」を読んでくださって、しかもとても心のこもった書評を寄せてくださったということ。
そして、……この白いドレスの可愛らしい女性が、斎藤詩織里さん、斎藤さんがお嫁さんである、ということ。

「嫁に書評を書かせよう」
本作りの最中に斎藤さんが言い出したときには、冗談抜きで「何言ってんだあんた!」と声に出してしまった。そもそもぼくは原稿依頼を頂いた段階では、斎藤さんが既に詩織里さんと入籍していることなど全く知らなかったのだ。
「面白がってくれてたみたいだから」
って、そりゃ一応そうは言うでしょうよ、でも内心はどうか判らない。自分の夫になる人が、自分以外の男と……。
いつかお会いするときが来たら、何て言えばいいんだろう? ずっとそう考えていて、この結婚式の二次会がその場になると定まったときにはもう、何か月も前から緊張していたほどだ。本当は怒ってるんじゃないか……? 

詩織里さんは怒っていなかった(いや、本当は怒っていたのかも知れないけど、それを見せまいとしてくれていたのかもしれない)
ぼくにとってはそれが、何よりも一番幸せで、そして一番大事な宝物のような事実だった。「ナマモノBL」を「本人の依頼に基づいて」書くという行為の持つ意味の大きさに、ぼくはこのときようやく気付いたのだ。斎藤さんがこの本を、考えうる限り最も相応しくない場で参列する人々に配ろうと思った意味も。
この本は、ぼくに出来る斎藤さんご夫婦への、最大限の祝福だった。
これからのお二人が、幸せであり続けてくれることをぼくは祈っている。でも「病める時も」来ないとも限らない、考えたくはないけれど、人生には何が起こるか判らない(本人から「おれのBLを書いて」と依頼されることがあるなんて、BL小説家はきっと想像しない)
そのときに、
「でもあんな本があってもおれたち仲良し」
って思ってもらえるんじゃないか。
つまりこの本は、二人のこれからに何があろうと二人はまるで揺らぐことなく、固い絆で結ばれて歩んでいくことを、予め証明するものなのだ。
そして、それが出来るのは、どうやら斎藤さんの知り合いの中で唯一のBL小説家志望者であるぼくの他にいないらしい。
きっと斎藤さんはそう考えて、ぼくに原稿を依頼したんだろうと、ぼくは思うのだ。

===

◆余談

さすがに一流ライター斎藤さんの結婚式の二次会で、その場にいる方々の錚々たるっぷりたるや、「錚々たる」という言葉しか思い付かないような豪華メンバーだった。そんな中、数ヶ月ぶりの再会となった古賀さんはぼく(なんか)のことを覚えてて下さって、本当に嬉しかった。ご本人にも、ぼくの書いた「古賀さん」を気に入っていただけたようだ。
そして同じくDPZ編集部の藤原さんや石川さんとご挨拶させて頂く機会も得られた。これまで画面の向こうにいた方たちとこうしてお話する日が来るなんて、夢にも思わなかった。何もかも、斎藤さんご夫妻のおかげである。
斎藤充博さん、詩織里さん、どうぞ末長くお幸せに!

おまえもたまごとじ丼にしてやろうか!

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最終的に至ったカオス


 かつ丼、という食べ物があるね。パン粉の衣をつけて揚げたサクサクのトンカツを、わざわざタマネギと一緒におつゆで煮て、たまごでとじた食べ物だ。おいしい、とてもおいしい。

 関東にチェーンを展開する「山田うどん」には「かき揚げ丼」というメニューがある。これはただ掻き上げを乗せただけではなくて、やっぱりたまごでとじた食べ物である。メニューの写真には「山田の定番!」という文句が添えられている。

 お蕎麦屋さんに行けば「たぬきそば」や「コロッケうどん」や「天ぷらそば」がある訳だ。めんつゆと油は相性がいい、ということだろう。とりわけ「衣」が油を解き放ち、その身いっぱいにめんつゆを抱き締めている味に、みんな惹かれているということだ。

 揚げものをたまごでとじてご飯に乗せたら、どれでも美味しい丼になるんじゃないか。そんな気がして来て試してみたら、だいたい予想のとおりでした。

 

 

揚げ物フィーバー

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 そんな訳で我が家の(せまい)台所に集結したのは五種類の「普段あんまりたまごでとじないよね」系の揚げ物たち。

 

(1)かぼちゃ天

 天丼とか天ぷらの盛り合わせとして出て来たときには最初に片付けちゃう……、とかありませんかね? ぼくは甘いおかずがあまり得意でないもんで……。

 

(2)アジフライ

 フライ四天王の一角を担う存在。普段は特に手を加えることなくソースか醤油で立派に「メインおかず」を張ることを考えると、トンカツ→かつ丼同様の変わり身と言えそう。

 

(3)ちくわ天

 これは「天ぷら」というよりは「立ち食いそば/うどんのトッピング」としてキャラが立っているイメージ。丸亀製麺はなまるうどんでもついついいつもチョイスしてしまう。安いわりにお腹に溜まるのが嬉しくって。

 

(4)山芋の天ぷら

 スーパーのお惣菜コーナーで買ったんだけど、天ぷらの中で一番珍しかったのがこれ。山芋ってあんまり味ないでしょう、食感を楽しむものだと思う。めんつゆで煮込んで上手いこと味が染みたらおいしくなるのでは。

 

(5)ベーコンクリームコロッケ

 立ち食いそばのトッピングとして不動の地位を確立しているのはいわゆる普通のコロッケで、あれにめんつゆが合うのは知ってる。けど、クリームコロッケだとどうなるんだろう?

 

 一度に全部食べたらカロリーやらコレステロールやらがえらいことになるのは目に見えているから、それぞれ半分に切って食べます。ベースのおつゆは特に工夫もなく、おつゆのボトルに書いてある「丼もの」の通りに希釈したもの、薄切りにした玉ねぎをこれでぐつぐつやって、揚げ物を乗せて、たまごでとじるだけです。

 

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 別にそんな変なことやってるわけじゃないんだけどどこか慣れない印象。

 

 さすがに同時に全部は食えないので、少しずつ順番に食べていきますよ。

 


かぼちゃ天玉丼

 

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 誰もいない食卓に、

「これ……、あれだな、かぼちゃの甘辛く煮つけたやつの味だ……」

 小さく独り言が漏れた。正式に何て呼ぶのか判らないけど、あるでしょう、かぼちゃを、ね、甘辛くしたやつ、あれの味です。衣がおつゆのしょっぱさを吸い込んだ結果、あの料理に非常に近い味になっている。ぼくはかぼちゃの甘さが得意じゃないんだけど、ここまでしょっぱくなってればまあ……、食べられなくはない。ただ何だろうか、……精進料理感があるな。ちょびっとでも肉か魚の破片が入っていればそれだけでグレードアップしそうなんだけど……、かつ丼や天玉丼の幻影がちらつく。

 下手するとこれ全部同じこと考えちゃうんでは。薄っすらとそんな懸念がよぎる。

 

おいしさ    ★★☆☆☆

寂しさ     ★★★★☆

別の料理感   ★★★★☆



アジフライ玉丼

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 アジフライはタテに半切りにした(そうしないと茶碗に収まらない)んだけど、きっとかつ丼のトンカツみたいにもうちょっと細かく切ってからとじたほうがよかったんだな。えらく荒々しい見た目になってしまった。ただかぼちゃ天丼のときに感じた「肉か魚が欲しい」という気持ちに対してはこれ以上ないアンサーとなっている。

 だが、一口食べてみて驚いた、しょっぱいのだ。

 ……これはきっと下味の塩コショウの味なんだろうな。もとから味のついているものをめんつゆで煮込んだら、そりゃしょっぱくもなりますよ。

 でも、大きく口を開けて噛り付くと、満足感は高い。ご飯と一緒にかきこみたい、ますます細かく切っておけばよかった。それでも無理してガツガツ行くと、小骨が致命的なまでに邪魔。

 

おいしさ   ★★★☆☆

しょっぱ   ★★★★★

小骨が邪魔  ★★★★★

 


ちくわ天玉丼

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  ちくわ天が人気なのって「安いけど手の込んだものが出て来た」感があるからじゃないですかね。魚のすり身だし、食感はイカだし、しかも天ぷらだし。

 そんな訳で期待していたんだけど、やっぱりこれも一切れがでかいな。

 はむ、と噛んでみる。

 一瞬、イカ天がそこにいた。

 すぐにそれが錯覚だと気付かされる。ちくわの香りがムンとしてくるのだ。考えてみるとこれまで「ちくわとご飯」って組み合わせあんまりしたことないな。炊き込みご飯にちょっと入れるぐらいか。そう言えばちくわってこう見えて結構個性が強い味と香りがするんだったっけ。

 そんな印象です。

 

おいしさ   ★★☆☆☆

イカの幻   ★★★☆☆

胃もたれ   ★★★★★

 

 ……小さめの茶碗で食べているとはいえ、そろそろ揚げ物が胃にもたれてくるお年頃である。昼飯はこれぐらいにして、残りは夜に回した。


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家人が半分ずつ残った揚げ物をカレーに乗せていた。


後半戦行きます。山芋天とクリームコロッケを、二人分まとめて調理。

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山芋天玉丼

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 山芋の素朴な風味が消えてしまったのが残念で仕方がない。「山芋って火を通すとさ、ほっくりしてさ、優しい風味が残ってて……」って、誰に対してか判らない言い訳を口走りそうになる。ほとんどめんつゆの味の、ほくほくした何か。そんな中にあってわずかにぬめりが残っているのが、かえって寂しさを感じさせる結果になってしまった。

 

おいしさ   ★★☆☆☆

山芋感    ★☆☆☆☆

残念さ    ★★★★★

 


ベーコンクリームコロッケ丼

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 だいぶ上手く行っていない中で、気持ちも後ろ向きになり掛かっていたんだけど、これは一口食べて「んん!」と思わず膝を立てた。そのまま立ち上がるほどではないけれど、これはイケる。クリームコロッケってもともと濃い味で、そこにめんつゆが加わるとしつこくなるかなって心配してたんだけど、むしろここへ来て初めて味が拮抗する感覚があった。めんつゆってこうしてみると結構強いあじだったんだな。アジフライはしょっぱくて、「しょっぱい×しょっぱい」の相乗効果で駄目だったけど、別ベクトルの濃さならめんつゆと対等に渡り合える。

 クリームコロッケにはめんつゆがよいのかも知れない。

 

おいしさ   ★★★★★

濃さ     ★★★★★

バランス   ★★★★☆

 

 

 ここでこの企画終えてもいいかなと思ったんだけど、数日後家に帰ったら家人が買って来た揚げ物が台所で冷えてぼくを出迎えてくれた。せっかくなので延長戦を催すことにしよう。ラインナップは白身魚のフライとハムカツ、そしてプラスアルファでもう一品。

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ハムカツ丼/白身魚のフライ丼/あげ玉玉丼

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一つずつの写真を撮り忘れちゃったからまとめて。


 まずハムカツ丼。いや、判ってたけどしょっぱいな! 

 アジフライ丼やハムカツ丼を作るにあたっては、おつゆを薄めにしなきゃいけない。それかもう、ソースカツ丼みたいなカッコにしなきゃダメだ、とにかく下味のついてるものはたまごとじ丼には向いていないと思います。

 ただ、それを差し引いても味そのものは塩と油の合わさったジャンクな感じで、そういうのが好きな方はいいのでは。男子高校生とか。あとはまあ、肉感においてはかつ丼に負けないものを感じる。魚肉ソーセージかも知れないけど。

 

おいしさ   ★★☆☆☆

塩      ★★★★★

肉感     ★★★★☆

  


続いては白身魚のフライ、好きです。のり弁でも最後にとって贅沢にガブガブ頂きます。この「白身魚」の正体についてはこの記事を参考にしますと、どうも「メルルーサ」であるらしいですね。メルルーサってちょっと沖縄の言葉っぽさありません?

 これもしょっぱいかなーと思ったら、下味があっさりめだったのかそんなことはなく。デフォルトでタルタルソースが付いていたのでそのまま入れちゃったんだけど、これもそんなに合わないことはない。

 トータルで考えると一番優秀かもしれません。バランスもいいし、贅沢な感じがしますよ。

 

おいしさ   ★★★★★

バランス   ★★★★☆

満足感    ★★★★★

 

 

最後に、あげ玉があったんで、それも一緒にたまごとじにして丼に。あげ玉は普段納豆に入れて食べています。

 保護色……、だな。

 味も……、遠いな。

 しかししつこさだけは残るな……。

 やらないほうがよかった。

 

おいしさ   ★☆☆☆☆

まずしさ   ★★★★★

虚無感    ★★★★★

 

===

選択肢の一つとしてなら


 夫婦が共働きの家なんかでは、スーパーのお惣菜コーナーにある揚げ物って食卓に並ぶ機会もおおいんじゃないだろうか。でもたいていは「揚げたて」とは程遠い、冷めてて硬くなってて……。レンジでチンすると、今度は衣がフニャラカになってしまって。せっかくの晩御飯が寂しくなってしまう。

 しかしながら、たまごとじ丼にすると、

 (A)衣フニャラカでも気にならない

 (B)ひと手間プラスしたことによる(自己)満足感

 (C)たまごとタマネギで栄養バランスアップ

 こういったメリットが発生する(塩分量については目をつぶってもらうとして)のである。

 遅くなった夜のご飯の選択肢の一つとしては、アリなんではないでしょうか。アジフライやハムカツ以外でね。


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揚げ物大好き。